入口
毎回変わる扉
倉庫、駐車場、工事現場、閉店したスポーツクラブ。入口は開催ごとに変わる。観客は直前に送られる短い暗号だけを頼りに集まる。
地下闘技場は、古い倉庫の地下に作られていた。天井は低く、照明は白すぎる。観客席は近い。近すぎる。息、汗、恐怖、金の匂いが、同じ空気の中で混ざっていた。
表向きには、存在しない場所である。地図にも載らず、チケットも残らず、入口は毎回変わる。だが一部の者たちは、この場所を知っている。政治家、投資家、元選手、海外のブローカー、そして、人間の限界に値段をつける者たち。
ここで行われるのは試合ではない。選手がどこまで壊れずに動けるか。怒りに飲まれず命令を聞けるか。倒れたあと、まだ立てるか。それを測るための公開実験である。
地下闘技場は、主人公が陰謀の中心へ降りていく場所である。
トレーナーが残した記録は、この闘技場の試合ログにつながっていた。選手番号、心拍、賭け金、異常反応、試合後の搬送先。すべてが、賭博室の赤い数字と連動していた。
主人公は、自分がかつて戦った相手の何人かが、この場所に流されていたことを知る。彼らは引退したのではない。消されたのでもない。まだ、戦わされていた。
競技場には、ルールがある。リングには、審判がいる。試合には、終わりがある。だが地下闘技場では、そのすべてが形だけ残され、意味だけが奪われている。
これはスポーツの影である。努力、忍耐、勇気、勝利。美しい言葉が、金と支配のために反転した場所である。だから主人公にとって、この場所で戦うことは、相手を倒すことではない。スポーツの魂を取り戻すことになる。
入口
倉庫、駐車場、工事現場、閉店したスポーツクラブ。入口は開催ごとに変わる。観客は直前に送られる短い暗号だけを頼りに集まる。
リング
公式規格に似ているが、微妙に狭い。ロープは硬く、床はわずかに沈む。選手の消耗を早めるために、意図的に調整されている。
観客
彼らは歓声を上げない。笑わない。ただ見る。選手が倒れた瞬間だけ、スマートフォンの画面に赤い数字が走る。
階段を降りるたびに、音が変わった。
地上では雨の音がしていた。アスファルトを叩く、普通の夜の音だった。だが地下へ進むにつれて、雨は遠ざかり、かわりに別の音が聞こえてきた。床を踏む足音。息を殺す観客。どこかで鳴る電子音。
扉の前で、男が彼を止めた。
「名前は」
彼は答えようとして、口を閉じた。トレーナーのノートに書かれていた言葉を思い出したからだ。
ここでは、名前を出すな。
名前は、人間に戻るための最後の糸だ。
男は小さなカードを差し出した。そこには、彼の名前ではなく、番号が印刷されていた。
七番。
その数字を見た瞬間、彼は山道の第七チェックポイントを思い出した。すべては、最初からつながっていた。